自治医科大学医学部同窓会報「研究・論文こぼれ話」その32 同窓会報第87号(2019年1月1日発行)


混合研究法のススメ」

                        浜松医科大学健康社会医学講座 尾島俊之(愛知10期)

ojima

 「混合研究法」という研究手法が最近注目を集めています。量的なアプローチと質的なアプローチを統合して研究を行おうとする手法です。この2つのアプローチを統合するという考え方は決して新しいものではありませんが、それぞれの専門家が、お互いに両者は相容れないものであると考える暗黒時代が長らく続いていました。近年になって、両者が協働するようになり、混合研究法が花開きました。医学分野では、量的アプローチによる根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine, EBM)が重視されている一方で、質的アプローチによる物語と対話による医療(Narrative-Based Medicine, NBM)も提唱されており、両者が絡み合って良いものがでてくることが期待されます。地域医療や公衆衛生の現場を始めとして、複雑化した現代社会において、両方のアプローチを用いて、それらを統合するということは非常に有用であると考えられます。最近、混合研究法に関する書籍や論文も次々と出版されています。 私は基本的に量的アプローチである疫学を専門としてきました。しかし、新しいテーマの研究を始める際に、どのような仮説をたて、どのような調査票を作るかと考えたときに、インタビュー等の質的なアプローチを行ってから、量的な調査を行うと有用です(探索的順次デザインといいます)。また、量的調査を行った際に、珍しい回答があったり、予想と異なる結果となったりすることがあります。追加でお話を聞いてみると、実際にどのような状況があって、そのような回答や結果になったのかが理解することができます(説明的順次デザインといいます)。また、量的調査と質的調査を同時に行って、総合的に解釈することもあります(収斂デザインといいます)。みなさんが、現場で日常的に行っていることを振り返ってみると、まさにこのようなことは多いのではないでしょうか。 このような混合研究法を、方法論として確立させ、より洗練させるために学会が立ち上がりました。国際混合研究法学会(Mixed Methods International Research Association, MMIRA)は2014年に第1回大会が開催されたばかりで、非常に新しい学会です。そして、それに参加した日本人を中心に日本混合研究法学会が2015年に発足しました。2019年9月14日(土)~9月16日(月・祝)に浜松市にて、第5回日本混合研究法学会年次大会兼国際混合研究法学会アジア地域会議が行われます。詳細は順次、日本混合研究法学会ホームページ(http://www.jsmmr.org/)に掲載してゆきます。是非、浜松にお越し下さい。

(次号は、自治医科大学公衆衛生学 阿江竜介先生(兵庫26期)の予定です)

戻る 次へ